
現役時代、浦和レッズなどに所属し、引退後もスポーツキャスターとして古巣に密着を続ける水内氏。浦和レッズマガジンの編集長を務め、独特の語り口から読者を引き込む島崎英純氏。会場には2人の真摯かつ笑いに富んだトークが溢れ、集まった観衆の熱は時間を追うごとに高まることになった。
20年目の節目を迎えたJリーグの開幕戦。浦和はミハイロ・ペトロヴィッチ監督や柏木陽介、槙野智章の古巣である広島と対戦したが、完成度の違いを見せつけられて0−1の“完敗”を喫した。
今季の開幕戦を、2人はどう評価したのか。島崎氏の、「負けましたね(笑)」の言葉が会場に張りつめた緊張感を解き、空気がほぐれたところに水内氏が切り込む。「ペトロヴィッチ監督のサッカーが何もできなかった。広島が『浦和にはこうすれば勝てますよ』と示したような試合だった」と語ると、島崎氏は完成度の違いは歴然だったと指摘。「広島の新加入選手、千葉(和彦)と石原(直樹)はすでに馴染んでいた。浦和には柏木、槙野がいたが2人だけでは難しかった。チームとしての共通理解の重要性を感じた」と見解を示すと、大きくうなずく観客の姿が見られた。
とはいえ、2人は決して今季のチームを悲観しているわけではないという。次の相手は昨季のJ王者、柏だが水内氏は「どれだけやれるか。やれれば相当な自信になるし、勝てなくても2点や3点取れる試合になれば面白い」と、試金石となりうる次節への期待を口にした。
もちろん、“お堅い”話だけでなく多くの“裏話”も披露された。“とある選手”がシュートを外した際の観客のリアクションに話が及ぶと、島崎氏は、「選手はブーイングより(吐息のような)『あぁ……』という反応の方がこたえるって言うんですよ。昔選手に言われたことがある。『島ちゃん、5万人から“あぁ……”って反応、受けたことある?』ってね(笑)」と明かすと、会場は笑いに包まれ、和やかな雰囲気を醸し出した。
ファンからの質問コーナーも実施。「結果が出なかった場合、どこまで我慢するべきですか?」との問いに対して島崎氏は、「我慢という言葉に違和感がある。サポーターは我慢なんてしなくていい」という。とはいえ、そこには島崎氏の抱く“信念”が見えた。引き締まった表情で、「ひとつだけ分かってほしいことがある」と訴えかける。
「言いたいのは、誹謗中傷することと、何かを提言することは違う、ということ。そういうことが分かっていれば何を言ってもいいと僕は思う」
1本の、揺るぐことのない芯が通った回答は観衆をうならせ、出演者と観客との“真剣なパス交換”を象徴するシーンとして印象に残った。
“赤き血のイレブン”を愛し、勝利を願う気持ちはみな同じ。水内氏、島崎氏という浦和を愛する識者とチームを後押しするサポーター。2つの属性が交わり合う空間には、緊張感の漂うスタジアムと、試合後に酒を酌み交わしながらサッカーについて語る風景という2つの“顔”が見て取れた。それはつまり、サッカーを楽しむ上での“本質”と言い変えられるかもしれない。
文=松岡宗一郎(SOCCER KING編集部)